10/06/2025 | Press release | Distributed by Public on 10/06/2025 11:38
近年、新興市場国は世界の金融市場が迎えた数々の混乱局面を経た後も、目を見張るような堅調さを示している。有利な外部環境(つまり幸運)が味方した場合も多いが、優れた政策が功を奏していることは明白だ。
過去には、世界の投資家が高リスク資産を無差別に売却する「リスクオフ」がしばしば、新興市場国に深刻な打撃を与えてきた。こうした局面は急激な資本流出と金融環境のタイト化を誘発し、通貨の急落やインフレの急騰を招いた。
この図式は、近年になって著しく変容している。多くの新興市場国は、世界的なリスク志向の変化を以前よりも巧みに切り抜けてきた。資本流出の規模は縮小し、借入コストは抑制され、成長は安定し、インフレは低下した。
IMFが最新の「世界経済見通し」の第2章で示す通り、金融政策の信頼性確保、中央銀行の独立性向上、財政政策の透明性強化といった政策枠組みの改善は重要な役割を果たした。世界金融危機前後の代表的なリスクオフ局面を比較したわれわれの分析は、政策枠組みの改善がGDP損失の緩和とインフレの低下に寄与したと結論付けている。
また、優れた枠組みは投資家の間で信頼と信用も醸成した。現地通貨建て債券市場は多くの新興市場国で厚みを増し、金融の頑健性の向上に寄与している。これは、通貨のミスマッチと急激な資本流出のリスクの両方を軽減することに貢献した。
ただし、リスクは依然として存在している。外部環境は急速に悪化する可能性があり、昨今の世界的なショックは財政余地を侵食した。パンデミック後のインフレ高騰はインフレ期待を押し上げており、政治的な圧力は苦労して得た信頼性を損ないかねない。
さらに、多くの新興市場国では財政ルールがあっても、ルールへのコンプライアンスが限定的だったことを主な理由に、債務の蓄積を予防できなかった。その結果、「国際金融安定性報告書」第3章で考察しているように、債務の構造と世界的なショックへの脆弱性は各国毎に大きく異なる様相を呈している。
枠組みの改善
われわれの分析は、金融政策の実施体制が整備され、中央銀行の信頼性が強化されたことを示している。過去には、多くの新興市場国が為替レートの自由な変動を認めることに躊躇していた。しかし、各国はインフレ期待をしっかりと定着させ、マクロプルーデンス規制を厳格化しながら、徐々に為替レートがショック吸収装置としての役割を果たせるようにし、中央銀行が経済活動の安定化に焦点を移せるようになった。
それと同時に中央銀行は、金融政策が財政のニーズに適合しなければならないような財政支配、そして国内の借入環境を左右していた米国金融政策の両方に対して独立性を強化した。これは、コストの大きい為替介入への依存度が各国で低下したことを意味する。
また、新興市場国では財政枠組みにも著しい改善が見られ、需要不足に対する各国政府の対応はより効果的になった。そのおかげで、世界の景気後退局面で経済を安定化させ、債務拡大と金利上昇がリスクをもたらす状況でも力強く対応することができた。
世界金融危機前後のリスクオフ局面を比較すると、危機後のGDPは危機前より1%ポイント高くなっており、その0.5%ポイントを僅かに上回る部分が枠組みの改善によるもの、残りは有利な外部環境が要因であった。インフレ率は効果的な政策によって0.6%ポイント低下した。
金融の頑健性とリスク
この点においても政策の強化は有効だった。
強固な政策枠組みを整備し、国内の貯蓄を拡大している主要新興市場国は、現地通貨建ての債務発行と、ノンバンク金融機関などの国内投資家の強い需要に頼ることができた。その結果、多くの国々において、外国投資家の保有する現地通貨建て債務の割合が、過去数年間で最低水準まで低下した。
「国際金融安定性報告書」の新しい分析が示す通り、現地通貨建て債務の国内保有率が上昇すれば、世界のショックに対する新興市場債務の感応度は低下する。リスクオフのシナリオにおいて、国内保有率が高いと、同率が低い場合よりも、国債利回りの上がり幅が小さくなる。
国債利回りに対する国内投資家の安定化作用は、銀行に顕著だと考えられる。われわれの分析によると、リスクオフショックは現地通貨建て国債利回りのスプレッドを19ベーシスポイント拡大させるが、国内銀行の保有率が1標準偏差分上昇すると、この影響が11ベーシスポイントまで緩和される。国内ノンバンク金融機関の保有率が高いことも、特定の状況において恩恵をもたらす可能性がある。
ただし、金融の安定性と頑健性は各国で均一に改善しているわけではない。小規模な新興市場国とフロンティア市場国は、短期的な国内債務や国際的な米ドル建て債券など、コストが高く不安定な資金調達手段に頼らざるを得なかった。さらに多くの国々に現地通貨建て債券市場の裾野を広げる努力は、頑健性の構築につながるだろう。
国内保有率の上昇も、リスクと無縁ではない。貯蓄水準が低く、投資家層が薄く、金融市場のインフラが乏しい国々では、ソブリン債を過度に保有すると問題につながる恐れがある。例えば、銀行によるソブリン債の保有率が大きいと、民間部門への融資能力が低下し、それが経済成長の足かせになるかもしれない。さらに、政府がデフォルトに陥れば、銀行部門にも甚大な損失が生じ、コストと困難を伴う銀行救済を招きかねない。
継続的なコミットメント
最近の経験は確かに希望を感じさせるものだったが、不確実性は依然として高く、新興市場国の試練は今後も続くだろう。進歩は各国間で一様でなく、財政余地が逼迫している国もある。
各国は、政策枠組みの実施体制と信頼性を向上させ、中央銀行の独立性を維持し、景気後退などの必要な時期に備えて支出能力を再構築するための努力を優先するべきだ。IMFの能力開発 もまた、現地通貨建て債券市場の発展を支援する一助となる。
改革を継続して、強固な基盤を築くことにより、新興市場国は苦労の末に得られた頑健性を永続的な安定性に結実させられるだろう。
- 本ブログ記事は、2025年10月「世界経済見通し(WEO)」の第2章(「新興市場国の強靭性:運の良さか、政策の良さか?」)、そして「国際金融安定性報告書」の第3章「グローバルなショックと現地の市場:新興国のソブリン債市場を巡る情勢変化」に基づいている。