University of Tokyo

06/05/2026 | Press release | Distributed by Public on 06/05/2026 00:54

直径1ナノメートルの半導体ナノチューブを合成

東京大学
産業技術総合研究所
筑波大学
大阪大学
科学技術振興機構(JST)

発表のポイント

◆ナノ空間を利用することにより、次世代半導体として有望な二硫化モリブデン(MoS2)のナノチューブを従来より一桁小さい直径約1ナノメートル(nm)で実現した。
◆原子レベルで整った構造を持つ単層MoS2ナノチューブの合成に成功した。半導体の電気的・光学的な性質を決める「バンドギャップ」が、直径が縮小するほど小さくなることを実験的に確認し、四半世紀前から提唱されていた理論予測を実証した。
◆半導体MoS2ナノチューブを絶縁体BNNTが同軸状に取り囲む構造は、次世代トランジスタのチャネル構造に対応し、低消費電力デバイスへの応用が期待される。

本研究のイメージ図

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概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科の中西勇介准教授らの研究チームは、ナノメートル(10億分の1メートル)サイズの細い空間(ナノ空間)を利用し、直径およそ1 nmの極めて細い二硫化モリブデン(MoS2、注1)の半導体ナノチューブの合成に成功しました。電子顕微鏡観察や分光分析により、原子レベルで整った構造と、直径に応じて電子構造(バンドギャップ)が変化することを実証しました。
半導体デバイスの微細化が進む中、極細の半導体材料の開発が求められています。特にMoS2ナノチューブは、ゲート電極で全周を囲むGate-all-around(GAA)型トランジスタ(注2)のチャネルとして注目されていますが、直径や原子配列の制御が困難でした。本研究では、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT、注3)の内部空間を利用して結晶成長を制限することにより、原子レベルで整った構造を持つ極細のMoS2ナノチューブを実現しました。
本成果は、原子レベルで構造を制御した超微細な半導体の新たな合成手法を示すものであり、低消費電力デバイスの実現につながる可能性があります。

発表内容

◆ 研究の背景
近年、半導体トランジスタの微細化が進むにつれて、従来のシリコンデバイスではさらなる性能向上に課題が指摘され、新しい半導体材料やデバイス構造の探索が進められています。特にナノメートルサイズの極細半導体は、究極的に微細化されたチャネルとして注目されています。その有力候補の一つが、遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD、注4)と呼ばれる層状半導体です。半導体TMDが円筒状になったナノチューブは、ゲート電極がチャネルを全周から制御するGAA構造に適した材料として期待されています。
しかし、TMDナノチューブは円筒形に伴う大きな歪みのため、直径が大きな多層構造となる傾向にあり、構造制御が困難でした(図1)。そのため、直径や原子配列の整ったTMDナノチューブの合成は長年の課題となっています。特に直径数ナノメートルのTMDナノチューブはサイズによって電子の性質(バンドギャップ)を制御できることが理論的に予想され、大きな関心が寄せられています。一方で、そのような極細径のナノチューブは不安定で合成自体が難しく、実験的な検証は困難でした。

図1:MoS2ナノチューブの径縮小と本研究の位置付け

従来のTMDナノチューブは多層構造(10 nm以上)が主流であり、近年、BNNTやカーボンナノチューブの外壁をテンプレートに利用した単層化(5〜10 nm)が進展してきた。本研究ではBNNTの内部空間を利用し、さらに小径(数ナノメートル以下)の単層ナノチューブを実現した。

◆ 研究内容
本研究では、BNNTの内部空間を反応場として利用する新しい合成法を開発しました。この手法は、研究チームがこれまで開発してきたナノ空間を利用した一次元物質の合成法を発展させたものです。BNNT内部に硫化モリブデンの前駆体を導入し、高温で熱処理することで、直径数ナノメートル以下の極細MoS2ナノチューブが形成されました(図2)。研究チームは過去にも化学気相成長法を用いたアプローチによりBNNT内部でのMoS2ナノチューブの合成を報告していますが、生成量は極めて少なく、直径もせいぜい3 nm程度でした(プレスリリース③)。今回の手法によって、より細く、構造の整ったMoS2ナノチューブを高い収率で合成できるようになりました。

図2:原子レベルで確認された同軸ナノチューブ構造

(左)BNNT内部で形成されたMoS2ナノチューブとGAAトランジスタのチャネル。(中央)透過型電子顕微鏡像から、単層ナノチューブがBNNT内部に同軸状に形成されていることがわかる。(右)原子分解能観察および元素マッピングにより、MoS2(内側)とBN(外側)からなる半導体/絶縁体の同軸構造が実証された。

透過型電子顕微鏡観察により、直径2 nm以下の単層ナノチューブがBNNT内部に数多く形成され、細いものでは1 nmに達することを確認しました。さらに統計解析により、直径が細くなるほどアームチェアと呼ばれる特定の原子配列が選択的に形成されることがわかりました(図3、図4)。電子エネルギー損失分光により、BNNT内に隔離された単一ナノチューブの光学特性を測定したところ、直径が小さくなるほどバンドギャップが小さくなる傾向を確認しました(図5)。この特性は理論的には四半世紀前から予測されていましたが、今回世界に先駆けて実験的に示されました。

図3:MoS2ナノチューブのサイズと構造

直径分布は2 nm以下に集中している。カイラル角分布は30°付近に偏り、ナノ空間によって原子配列が制御されることを示している。

図4:MoS2ナノチューブのカイラリティー分布

直径4 nm以上の領域ではカイラル角分布が広がるのに対し、直径2 nm以下の微小径領域では30°付近に強い偏りが見られる。これは、ナノ空間による空間的制約が構造選択性を生み出していることを示唆している。

図5:直径縮小に伴うバンドギャップの変化

電子エネルギー損失分光による単一ナノチューブの光学計測。ナノチューブの直径が小さいほど吸収端(バンドギャップ)が低エネルギー側へシフトする。

◆ 研究の意義
本研究では、ナノ空間を反応場として利用し、原子配列を制御した極細の半導体MoS2ナノチューブを初めて実現しました。半導体を絶縁体が取り囲む同軸構造は、GAAトランジスタの構造に対応しており、今回のナノチューブはまさにナノスケールのチャネルモデルとみなせます。本研究は、ナノ空間を利用したボトムアップ合成によって原子レベルで構造の整った極細半導体を実現したものであり、超微細トランジスタのチャネル設計、ひいては低消費電力デバイスの実現に向けて新たな指針を提示します。また、直径1 nmの極細ナノチューブでは、量子効果や曲率による電子構造の変化など、新物性の発現も期待されます。

◆ 今後の展望
半導体/絶縁体の同軸構造は、次世代トランジスタや光電子デバイスの基盤となることが期待されます。また、本手法はMoS2以外のTMDにも応用可能であり、これまで炭素材料中心だったナノチューブ科学を多彩な無機材料へと拡張する可能性も秘めています。

〇関連情報:
「プレスリリース①:高い光学異方性を備えた極細幅の無機ナノリボンを実現 ――絶縁性のナノ空間を反応場とした精密合成――」(2025/9/24)
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/11755.html

「プレスリリース②:立方体型の超原子が結合した二次元シートを創出 〜高効率な水素発生触媒の開発に期待〜」(2024/7/26)
https://www.tmu.ac.jp/news/topics/36815.html

「プレスリリース③:組成・構造の多彩な無機ナノチューブの合成技術を世界に先駆けて開発 ~高効率な太陽電池への応用展開に期待~」(2023/10/6)
https://www.tmu.ac.jp/news/topics/36072.html

※プレスリリース②③は中西准教授が東京都立大学在籍時の成果です。


発表者・研究者等情報

東京大学 大学院新領域創成科学研究科
中西 勇介 准教授

産業技術総合研究所
材料基盤研究部門
千賀 亮典 主任研究員
佐藤 雄太 研究グループ長
マルチマテリアル研究部門
劉 崢 上級主任研究員

東京都立大学 大学院理学研究科
古澤 慎平 博士課程(研究当時)
田中 拓実 博士課程(研究当時)

筑波大学 数理物質系/ホウ化水素研究センター
高 燕林 助教
丸山 実那 准教授
岡田 晋 教授

物質・材料研究機構 ナノアーキテクトニクス材料研究センター
宮田 耕充 グループリーダー
兼:東京都立大学 大学院理学研究科 客員教授

大阪大学 産業科学研究所
末永 和知 教授

論文情報

雑誌名:Science
題 名:Confined growth of armchair MoS2 nanotubes at the 1-nm limit(6月4日付掲載)
著者名:Yusuke Nakanishi*, Ryosuke Senga*, Shinpei Furusawa, Yuta Sato, Zheng Liu, Takumi Tanaka, Yanlin Gao, Mina Maruyama, Susumu Okada, Yasumitsu Miyata, and Kazu Suenaga*
DOI:10.1126/science.aee3446
URL:https://www.science.org/doi/10.1126/science.aee3446

研究助成

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「JPMJPR23H5」、同事業 CREST「JPMJCR20B1」「JPMJCR23A4」および創発的研究支援事業「JPMJFR213X」、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金「JP21H05232、JP21H05234、JP21H05235、JP22H00283、JP22H04957、JP23H01807、JP23H00277、JP24H00044、JP25K08442、JP25K22198、JP26H00393、JP26K01340」、野口遵研究助成金(NJ202408)、JKA機械振興補助事業(2025M-498)の支援を受けて行われました。

用語解説

(注1)二硫化モリブデン(MoS2
モリブデンと硫黄からなる層状の物質で、層間がすべりやすい性質を持つため潤滑剤として利用されてきた。近年は、極薄でも機能する半導体材料として、次世代半導体デバイスへの応用が期待されている。

(注2)Gate-all-around(GAA)型トランジスタ
半導体チャネルをゲート電極が全周から囲む構造を持つ次世代トランジスタ。従来構造よりもチャネルを効率よく制御できるため、低消費電力化が期待されている。

(注3)窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)
窒素とホウ素からなる六員環ネットワークを円筒状に巻いた一次元物質。カーボンナノチューブと同様の構造を持つ。炭素の代わりにホウ素と窒素が交互に並んだナノチューブ。

(注4)遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)
タングステンやモリブデンなどの遷移金属原子と、硫黄やセレンなどのカルコゲン原子で構成される層状物質。遷移金属とカルコゲンが1:2の比率で含まれ、組成はMX2と表される。単層は原子3層分の厚みしかなく、特に半導体TMDは次世代電子材料として注目されている。

関連研究室

新領域創成科学研究科 内田・中西研究室

お問合せ

新領域創成科学研究科 広報室

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