IMF - International Monetary Fund

09/22/2025 | Press release | Distributed by Public on 09/22/2025 09:09

金融は変わった。リスクは変わていない。

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新しいテクノロジーが、流動性と決済、経済安定性のあり方を再構築している

世界金融危機から15年以上が経過した。銀行と金融システムは当初より安全なようすである。しかしそれは、誰が流動性を提供するか、お金がどのように動くか、そして経済と金融の安定性に対するリスクを再形成する形で、進化している。その結果、次のショックは銀行から発生するのではなく、システムを支える新たなインフラから発生する可能性がある。

2008年を経て、規制当局は資本に関する基準を上げ、ストレステストのような新たな監督ツールを迅速に導入した。銀行はバランスシートを改めて強化し、リスクの高い貸付や裁定取引から手を引いた。パンデミック勃発当初に見られた、金融の混乱の責任を問われたのは資産運用会社で、銀行ではなかった。

規制当局が銀行を強化したものの、危機後のイノベーションによって金融環境は変わった。流動性の業務から銀行が手を引くにつれて資産運用会社が流動性を供給し、ノンバンクのスタートアップ企業が機関投資家用の新たなリスク評価ツールを構築し、デベロッパーが多岐にわたる暗号資産を導入し、中央銀行と政府がリアルタイム決済システムを確立した。

これらの開発により、コストが削減され、アクセスが拡大し、取り引きが加速した。しかし、それは金融仲介の構造にも大きな変化をもたらした。銀行システムの中核を成す流動性と与信、決済は、資産運用会社やテクノロジープラットフォーム、分散型ネットワークにシフトした。

金融のあり方そのものが再形成される中、今、大きな疑問が浮上する。重要な金融の機能が規制の枠組みの範囲外にある場合はどうなるのか。より速く、階層構造が簡素化された、分断された金融システムの安定性を確保するにはどうすればよいのか。

銀行から資産運用会社へ

銀行はかつて、金融市場の流動性において中心的存在だった。しかし今日では、金融システムで日々、家計や投資家へ流動性を提供する上で、銀行ではなくノンバンクの資産運用会社がますます貢献するようになってきている(図1)。オープンエンド型ミューチュアルファンドや上場投資信託(ETF)は、社債など、流動性とはほど遠い資産が入っているにもかかわらず、投資家は必要に応じて資金を償還することができる。日々の流動性を約束する商品だが、常に売却できるとは限らない原資産を含んでいる。これは銀行と変わりないが、資産運用会社は預金保険や資本バッファー、中央銀行へのアクセスがない。

これは理論に留まらない。実際に起こっているのである。コロンビア大学の馬一鳴と肖開栄との研究では、債券のミューチュアルファンドだけでも銀行システム全体と比較してかなりの流動性を供給しており、このシェアが上昇していることを示す。しかし、市場のボラティリティが激しくなると、ミューチュアルファンドはショックを吸収するのではなく増幅しかねない。資産価格が下落すれば、流動性の低い資産を売却せざるを得なくなり、ストレスがさらに高まる可能性がある。

ETFはさらに複雑である。理論上は、ほとんどのETFがパッシブ運用商品である。95%以上がS&P 500やブルームバーグ米国総合インデックスなどの指数に連動している。しかし実際には、多くが驚くほどアクティブである。現在、原資産よりも多くのETFがある。投資家は、多くの資産クラスにおいて、一般的な指数連動型以外にも、セクターを特定したファンド、スマートベータ戦略、さらにはAI、ロボット工学、グリーンなどの特定のテーマに焦点を当てたETFを選択できる。

舞台裏では、ETFの運用会社が資金のフローに対応し、原資産の価値に整合する価格を維持するためにポートフォリオを積極的に管理しなければならない。スタンフォード大学のナズ・クーント、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのルボス・パスター、コロンビア大学の馬との研究が示すように、債券ETFのファンドマネージャーは、公表されているベンチマークから逸脱することがよくある。特に債券ETFは、流動性のある株式のように取り引きされるが、原資産は流動性の低い債券である。こうしたETFは、ETFと原資産の間の価格の不一致を活かした裁量取り引きを行う専門の仲介者(指定参加者と呼ばれる)のネットワークに依存している。

指定参加者は債券ディーラーでもあり、ETFの管理のほかに、クライアントの代わりになって取り引きを実施する。その両方において同じバランスシートを使用している。ディーラーのバランスシートがひっ迫したり、債券市場が滞ったりすると、ETFの裁量取り引きが成り立たなくなる恐れがある。価格が変動し、流動性が低くなる。また、株式のような柔軟性を期待していた投資家は、クローズドエンド型の商品のようなものを保有したままになることとなる。

流動性を供給する新しいエコシステムは、以前のエコシステムよりも市場ベースで、広範囲で、潜在的に安価である。結局のところ、銀行は日々の流動性を供給する上でより大きな制約に直面しており、資産運用会社が穴埋めするために介入するのである。しかし、新しいエコシステムは別のルールに基づいており、市場が凍結したときのリスクが異なる。

AIとビッグデータ

かつて銀行家や融資担当者の領域であった融資は、AIとビッグデータがますます担うようになっている。ノンバンクのフィンテックプラットフォームは、決済記録と機械学習を使用して、検索コストを削減し、担保要件を回避し、融資の承認を迅速化し、従来の銀行が見落としがちな借り手にサービスを提供する。結果として、データが借り手と貸し手間でこれまで以上に自由に行き来し、ますます正確で適応性のある機械学習モデルが実現する。インド経営大学院のプラック・ゴーシュとハーバード大学のボリス・ヴァレイとの研究は、これがインドでどのように機能するかを示す。詳細を追跡できる記録機能を備えたキャッシュレス決済への依存度が高い小規模な業者は、運転資金へのアクセスが拡大する。こうした業者はより低い金利を支払うほか、デフォルトする可能性が低くなる。事実上、デジタルフットプリントが新たなクレジットスコアである。

この信用とデータのフィードバックループによって、大手ハイテク企業の力が増大した。アリババのアントグループのほか、アマゾン、中南米のメルカドリブレなどのプラットフォームは、決済と電子商取引、信用をまとめて扱っている。これらの企業の、消費者および中小企業向けローンの規模は現在、多くの銀行の規模を超えている。規模は利便性に繋がるものの、寡占も意味する。オンラインショッピングのチェックアウトボタンを制御するプラットフォームは、借り手や業者を、競合する銀行の貸し手から遠ざけることができ、競争について難題を突き付けている。

懸念されるのは規模だけではない。大手ハイテク企業は、伝統的なセーフティネットが必要と見なされる対象ではないため、資本と流動性、破綻処理に関する伝統的な規則がまだ適用されていない。2024年、アマゾンが中小企業向けの1,400億ドルの融資プログラムを突然中止し、企業が最も必要としているときに与信プラットフォームが消えうることを示した。AIとデータ主導の融資がいくつかのゲートウェイを通じてこれまで以上に多くの信用を提供するにつれ、「大き過ぎて潰せない」テクノロジー大手の出現について、多くの疑問が浮上する。

銀行システムの中核を成す流動性と与信、決済は、資産運用会社やテクノロジープラットフォーム、分散型ネットワークにシフトした Tweet this

暗号資産と即時決済

また、決済の仲介機関の進化も、この変化する銀行環境の中核にある。ビットコインは、金融危機の最中の2008年に、決済の代替通貨として開発された。ブロックチェーン技術に基づいて構築されたビットコインは、商業銀行や中央銀行を迂回することを目的としており、機関に頼らずにお金を動かす分散型の方法を提供する。良くも悪くも、ビットコインはその目的を達成しなかった。決済が遅く、使用にコストがかかり、ボラティリティが高い。大半の暗号信者にとってビットコインは、デジタル通貨というよりは、デジタルの金である。つまり、投機的な資産であり、機能的なお金ではない。

これを正すために、ビットコインの親戚のようなステーブルコインが登場した(図2)。ビットコインと同様に、ステーブルコインは決済サービスを提供するために設計されたブロックチェーン資産である。ジーニアス法やステーブル法などの、米国の新しい法律は、ブロックチェーン資産の成長をさらに後押しする可能性がある。ステーブルコインのビットコインとの重要な違いは、現実世界の通貨(通常は米ドル)に連動していることである。サークル(USDC)やテザー(USDT)などの発行体は、その連動性を維持するために銀行預金、米国債、社債を準備資産として保有している。ビットコインの激しいボラティリティを回避するため、ステーブルコインは安価でボーダレスな支払いの代替手段として有望であることが示されてきた。ステーブルコインは、インフレ率が高いアルゼンチンやトルコ、ベネズエラで命綱のような存在となった。現在、これらの国々では一般の人々が貯蓄や送金、決済にステーブルコインを使っている。大手銀行 や 大規模な業者が独自のステーブルコインの発行を検討する中、ステーブルコインは着実に主流の支払い手段となりつつある。

しかし、ミューチュアルファンドやETFと同様に、ステーブルコインも、中央銀行の支援への直接的なアクセスや預金保険といった伝統的なセーフガードがない。2023年3月、シリコンバレー銀行が破綻したとき、サークルのUSDCは準備資産へのアクセスを失った後、一時的にドルへの連動性を失った。その前年、テラのアルゴリズムステーブルコインの暴落によって、広範な損失が出た。コロンビア大学の馬とシカゴ・ブースの張翼東との研究では、ステーブルコインが直面する中核的なジレンマが浮き彫りになった。安定的な価格を効果的に維持すればするほど、銀行に似る。しかし預金保険や最後の貸し手がいないため、ステーブルコインは取り付け騒ぎに対してより脆弱である。これらの観察からあることが明確になる:ステーブルコインは好況時にはうまく機能するかもしれないが、ストレス下では衰退しうる。

決済において民間の暗号資産が代替手段として台頭したと同時に、政府が後援する高速支払いシステムが別の選択肢となっている。結局のところ、人は決済のスピードと効率を重視しており、暗号資産は主張されているほど速くも安くもない。ブラジルの中央銀行は、従来の銀行の支払いシステムを土台に構築され、いつでも利用できる高速で無料の支払いシステムであるPIX(ピックス)を導入した。日々処理する取り引きは現金とクレジットカード、デビットカードを合わせたよりも多い。ブラジルの家庭や企業の90%以上がPIXを採用している。インドの統合決済インターフェースも同様の道のりをたどった(F&D本号の 「India's Frictionless Payments」を参照)。

こうしたシステムは、暗号資産が約束したもの(より速く、より包括的な決済)を提供するが、混乱がはるかに小さい。国際決済銀行が、金融安定性を維持しつつ金融包摂を促進していると称賛するなど、国際的な注目を集め ている。

しかし、メリットはあるものの、迅速な決済制度システムにはトレードオフが伴う。マサチューセッツ工科大学のディン・ディン、ブラジル中央銀行のロドリゴ・ゴンザレス、コロンビア大学の馬と共同で行った新しい研究では、Pixのような決済システムは、予測不可能な流出に対応できるように銀行がより多くの流動性資産を保持することを強いられるほか、銀行貸し出しが減り、そして(おそらく驚くべきことに)信用リスクが高まることが明らかになった。なぜなら、消費者への迅速な決済の利便性は、決済フローの遅延と利益における銀行の損失を犠牲にすることになるからである。迅速な決済は、銀行にとって、 流動性の低い融資を提供するよりも、現金や国債などの流動資産を保有する必要性が高まる。流動性の高い低利回り資産を保有する銀行にとっては、利回りを追求すべく、リスクの高い融資を提供するインセンティブが大きくなる。ある意味では、決済システムはより速くなるが、支払いが速いと、意図せずに銀行モデルが狭くなり、潜在的にリスクが高まる可能性がある。

マクロ金融への意味合い

銀行は今日、資本要件の強化と監督の強化、定期的なストレステストのおかげで、より安全である。しかし、必ずしもマクロ経済環境が守られているわけではない。

第1に、金融システムが以前より分断化している。主要な機能や決済、与信、流動性は、規制の範囲外へシフトした。ミューチュアルファンド、ETF、ステーブルコインは預金のようなものである。ロボットとプラットフォームは信用を提供する。しかし、銀行とは異なり、預金保険、最後の貸し手へのアクセス、システミックな監督がない中で、業務を行っている。このことは、欧州中央銀行 のクリスティーヌ・ラガルド総裁と中国人民銀行の 潘功勝総裁が強調したように、地経学的な対立と相まって、金融システムがより分断化する可能性を高め、規制における世界的な協調に課題を突き付ける。リスクは消えなかった。リスクがシフトしただけである。

第2に、資本フローが加速した。リアルタイムの取り引きや与信データのループ、迅速な決済はすべてショックを増幅させる恐れがある。かつては数日かかっていたことが、今では数分で完了する。しかし、ストレス吸収のためのツール、流動性の安全策、市場介入が追いついていない。動きは速くなったが、スタビライザーはなっていない。

第3に、政策ツールキットの整合が徐々にずれてきている可能性がある。中央銀行は、預金金利が貸し出しに影響を与え、最後の貸し手が預金者を落ち着かせる、銀行支配型のシステムの枠組みを構築した。しかし、お金が資産運用会社にあったり、オンチェーン取り引きとして存在したり、アプリを介して移動したりする場合、従来の基準があまり効果的でなくなる。リスクがどこに蓄積するかを確認するのが難しく、リスクが発生したときにリスクを止めるのが困難になっている。

世界の金融環境は変化したが、ルールはほとんど変わっていない。そして、そのミスマッチが最大のリスクかもしれない。

曾垚は、ペンシルバニア大学ウォートンスクールで金融の助教授を務めるほか、シンシア・アンド・ベネット・ゴラブ・ファカルティ・スカラーであり、全米経済研究所のファカルティ・リサーチ・フェロー。

記事やその他書物の見解は著者のものであり、必ずしもIMFの方針を反映しているとは限りません。

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