University of Tokyo

07/29/2026 | Press release | Distributed by Public on 07/28/2026 09:14

非常識にもほどがある2

東京大学

発表のポイント

  • 細菌のもつDRT3システムは、2つの逆転写酵素(DRT3aとDRT3b)と非コードRNAから構成され、ファージ感染に対する防御を担うが、その仕組みは明らかになっていなかった。
  • DRT3aは非コードRNAを鋳型として、TとGの繰り返しからなるDNAを合成する一方、DRT3bはRNAの鋳型を使用せずに、CとAの繰り返しからなるDNAを合成することを明らかにした。
  • クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析により、DRT3bが特定のアミノ酸残基(E22とR241)を鋳型としてCとAの繰り返しからなるDNAを合成する新しいメカニズムを解明した。
  • ファージ感染時にDRT3aおよびDRT3bによって合成される二本鎖DNAが蓄積し、ファージに感染した細菌が死滅することによって、細胞集団が感染から守られることが示唆された。
  • 本研究は、細菌のもつ多様な抗ファージ防御機構の理解を深めるとともに、生物学の常識である「DNA → RNA → タンパク質」という遺伝情報の流れに反し、タンパク質がDNA合成の鋳型となることを示すものである。

DRT3システムによる抗ファージ防御機構

概要

東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻の米山幹太大学院生、同大学先端科学技術研究センターの西増弘志教授らのグループは、Columbia UniversityのMegan Wang大学院生、Samuel H. Sternberg准教授らのグループとの共同研究として、大腸菌のもつDRT3システムが抗ファージ (注1)防御機構として機能する分子メカニズムを解明しました。DRT3システムは、2つの異なる逆転写酵素 (注2)DRT3aとDRT3b、および、非コードRNA(ncRNA)(注3)から構成され、近年、ファージ感染に対する防御機構として機能することが明らかになりました。しかし、2つの逆転写酵素がそれぞれどのようなDNAを合成し、そのDNAがどのように感染防御につながるのかは謎に包まれていました。
今回、研究チームは、DRT3aとDRT3bがまったく異なるメカニズムでDNAを合成することを明らかにしました。DRT3aはncRNAの一部の配列を鋳型として、チミンとグアニンが交互に並んだDNA(poly-dTdG)を合成しました。一方、DRT3bは核酸鋳型を必要とせず、タンパク質のみでシトシンとアデニンが交互に並んだDNA(poly-dCdA)を合成しました。さらに、
クライオ電子顕微鏡< /a>(注4)を用いてDRT3b-DNA複合体の立体構造を決定し、DRT3bのC末端近傍のチロシン残基(Y666)がDNAの合成開始点として機能することを明らかにしました。また、DRT3bの活性部位に存在するグルタミン酸(E22)とアルギニン(R241)という2つのアミノ酸残基が鋳型として機能することにより、シトシンとアデニンを交互に取り込む仕組みが明らかになりました。さらに、機能解析の結果、(1)DRT3aとDRT3bによって合成された相補的な2種類のDNA(poly-dTdGとpoly-dCdA)が二本鎖DNAを形成すること、(2)平常時は宿主のヌクレアーゼ (注5)がこの二本鎖DNAの蓄積を抑えていること、(3)ファージが細菌に感染するとファージ由来のGamタンパク質がこのヌクレアーゼを阻害し、二本鎖DNAが蓄積することにより、感染細胞の細胞死が誘導されることが示唆されました。このように感染した細菌が自ら死ぬことでファージの増殖を阻止する仕組みは、アボーティブ感 染(注6)と呼ばれます。
本研究により、DRT3システムはRNAを鋳型にDNAを合成するDRT3aとアミノ酸残基を鋳型にDNAを合成するDRT3bが協働し、細胞死を誘導する二本鎖DNAを作り出す、前例のないファージ感染防御機構であることが明らかになりました。本成果は2026年7月28日(英国夏時間)に「Cell」オンライン版に掲載されました。

―研究者からのひとこと―

DNAは通常、核酸を鋳型として合成されると考えられていますが、DRT3bでは核酸の鋳型を用いずに、タンパク質のアミノ酸残基がDNA配列を決定していました。2つの逆転写酵素がそれぞれ異なる原理で相補的なDNAを作り、最終的にファージ感染防御につながるという仕組みは予想外で、常識を覆すものでした。実験を重ねるたびに新しく、予想外な事実が判明し、その結果を翌日のミーティングで共有するというとても充実した研究生活でした。当時の毎日を今でも鮮明に思い出します。この共同研究を提案してくれ、学会の空き時間ではともに草野球をしてくれたSamuel H. Sternberg先生、一から研究の面白さを伝えてくれた西増先生に、心から感謝しています。マンマミーア!
(東京大学大学院工学系研究科 米山幹太 大学院生)

これまでの常識に反し、DRT3bが核酸鋳型を使わずに特定の塩基配列を持つDNAを合成する分子メカニズムを解明できたことを大変うれしく思います。また、共同研究者のSamuel SternbergはJennifer Doudna研究室で学位を取得した世界トップレベルの若手研究者であり、CRISPR-Cas9の研究では競合相手でした。そのため、今回彼と共同で大きな発見ができたことを非常にうれしく思います。Samとは彼が大学院生だった2014年にCRISPRミーティングで初めて会いましたが、それ以降は交流がありませんでした。しかし、2024年に京都で開催されたゲノム編集学会にSamが参加し、学会後に研究室を訪問してくれたことで、セミナーやディスカッション、キャッチボール、夕食の鮨を通じて親交が深まり、今回の共同研究が始まりました。さらに、論文執筆を始めた頃に別のグループが同様の結果をScience誌に報告したことを知り非常に驚きましたが、諦めずに2週間で論文をまとめて投稿し、最終的に最高のかたちで発表できたことをうれしく思います。
(東京大学先端科学技術研究センター 西増弘志 教授)

発表内容

ファージは細菌に感染して増殖するウイルスであり、自然界に多く存在します。近年の研究から、原核生物はファージ感染から身を守るため、CRISPR-Casシス テムhttps://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20260625_1.html )(注7)や、Retronシ ステムhttps://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20251203.html )(注8)など様々な防御システムをもっていることが明らかになってきました。その1つであるDRT(defense-associated reverse transcriptase)システムは、逆転写酵素によるDNA合成を介してファージ感染を防御します。DRTシステムは現在10個のタイプに分類されており、これまでに、DRT1、DRT2、DRT4、DRT7、DRT8、DRT9、DRT10の多様なファージ感染防御メカニズムが明らかになっています。
既知のDRTシステムが1つの逆転写酵素を中心として構成されるのに対し、DRT3システムは、2つの異なる逆転写酵素(DRT3aとDRT3b)およびncRNAから構成されます(図1)。先行研究から、これら2つの逆転写酵素の活性、および、ncRNAがファージ感染防御に必須であることが明らかになっていました(図1)。しかし、これら2つの逆転写酵素がどのようなDNAを合成するのか、また、どのように抗ファージ防御を引き起こすのかは不明でした。

図1:DRT3システムの遺伝子構成と抗ファージ防御活性


DRT3システムはDRT3a、DRT3b、ncRNAから構成される。DRT3システムをもつ大腸菌はファージに対して防御活性を示すが、DRT3a、DRT3bのいずれかが不活性となる変異を導入すると、防御活性は失われた。ファージ感染により大腸菌が死滅すると、透明の穴が生じる。

今回、研究チームはDRT3システムを発現した大腸菌からDNAを単離し、シーケンス解析を行いました。その結果、チミンとグアニン、および、シトシンとアデニンが2塩基ごとに繰り返した特徴的な配列が発見されました(図2)。さらに、精製したDRT3a、DRT3bを用いてDNA合成活性を調べたところ、DRT3aはncRNAの一部の配列を鋳型として、poly-dTdGを合成する一方、DRT3bはncRNAを必要とせず、タンパク質のみでpoly-dCdAを合成することが明らかになりました(図2)。つまり、既知の逆転写酵素と同様に、DRT3aはRNAを鋳型としてDNA配列を決定する一方、驚くべきことに、DRT3bは核酸鋳型を使わずにDNA配列を決定することがわかりました。

図2:DRT3aとDRT3bのDNA合成反応


DRT3システムを発現させた大腸菌からDNAを単離し、次世代シーケンサーを用いてDRT3システムによる反応産物を解析したところ、poly-dTdGとpoly-dCdAが検出された。さらに、試験管内でDRT3aとDRT3bによって合成されたDNAをシーケンス解析したところ、DRT3aはncRNAを鋳型にpoly-dTdGを合成する一方、DRT3bはncRNAなしでpoly-dCdAを合成することが判明した。

次に、クライオ電子顕微鏡を用いてDRT3b-DNA複合体の立体構造を決定しました。その結果、DRT3bは6分子からなる複合体を形成し、各分子にシトシンとアデニンが交互に並んだDNAが結合していることが明らかになりました(図3、図4)。さらに、DNAの5′末端のリン酸基とDRT3bのC末端近傍に存在するチロシン残基(Y666)の側鎖が共有結合していることが明らかになりました(図4)。このことから、DRT3bのチロシン残基がDNAの合成開始点としてはたらくことが示唆されました。

図3:DRT3b-DNA六量体の立体構造


DRT3bはRTドメイン、αRepドメイン、CTTドメインからなる。1分子のDRT3は1分子のDNAと結合し、全体として六量体を形成する。

図4:DRT3b-DNA単量体の立体構造


(上)DRT3b-DNA単量体の構造。 (下)DRT3bに結合したDNAの構造。DNAの5′末端のリン酸基とDRT3bのチロシン残基(Y666)のヒドロキシ基が共有結合している。

さらに、DRT3bの活性部位近傍に存在するグルタミン酸(E22)とアルギニン(R241)という2つのアミノ酸残基が、DNA塩基の選択に重要であることがわかりました。E22はアデニンと選択的に相互作用する一方、チミンやグアニンの取り込みを妨げる「ゲート」としてはたらくと考えられます(図5)。一方、R241はシトシンを認識し、構造変化することにより、シトシンとアデニンが交互に活性部位に取り込まれることわかりました(図5)。これらのアミノ酸残基に変異を導入するとDRT3bのDNA合成活性が大きく低下しました。したがって、DRT3bはタンパク質中のアミノ酸残基を利用してDNAの塩基配列を決定する、前例のないDNA合成酵素であることが示されました(図5)。

図5:DRT3bの塩基認識メカニズム


-1位にシトシンが存在するとき、活性部位近傍に位置するE22が、dATPの取り込みを促進し、dTTPおよびdGTPを排除する。この際、-1位のシトシンはR241と相互作用している。触媒反応が起き、+1位のアデニンが-1位に転移すると、R241はアデニンと立体障害を起こし、+1位に移動する。すると、R241はdCTPの取り込みを促進する。この繰り返しにより、シトシンとアデニンが交互に取り込まれ、poly-dCdAが合成される。

さらに、DRT3による防御をすり抜けた「エスケーパーファージ」を解析したところ、いずれのファージもGam遺伝子に変異をもつことが分かりました。Gamは、大腸菌がもつ二本鎖DNA分解酵素であるRecBCD複合体を阻害するタンパク質です。このことから、ファージ感染前はDRT3a/DRT3bによって合成された2種類の相補的なDNAからなる二本鎖DNAをRecBCDが分解することにより、その蓄積を防いでいると考えられます。一方、ファージ感染時にはGamがRecBCDを阻害することで、DRT3a/DRT3bが合成した二本鎖DNAが蓄積し、感染した細菌の細胞死が誘導されることが示唆されました(図6)。

図6:DRT3システムによる抗ファージ防御機構


通常状態では、大腸菌由来ヌクレアーゼであるRecBCDがDRT3a/DRT3bによって作られた二本鎖DNAを分解し、細胞死を防いでいる。ファージが感染すると、ファージ由来タンパク質GamがRecBCDを阻害し、二本鎖DNAが蓄積する。その結果、細胞死が誘導され、アボーティブ感染による抗ファージ防御が達成されると考えられる。DRT3a/DRT3bによって合成された二本鎖DNAが細胞死を引き起こすメカニズムは不明であり、さらなる研究が必要である。

本研究により、DRT3システムは、RNAを鋳型としてDNAを合成するDRT3aと、アミノ酸残基を鋳型としてDNAを合成するDRT3bを組み合わせることで、抗ファージ防御に関わる二本鎖DNAを作り出すことが明らかになりました。本研究は、逆転写酵素を利用した細菌の感染防御機構の理解を深めるとともに、タンパク質自身が合成するDNAの塩基配列を決定するという新しいDNA合成原理を示すものです。

発表者・研究者等情報

東京大学
大学院工学系研究科
米山 幹太 博士課程
石川 潤一郎 博士課程(研究当時)
平泉 将浩 助教

先端科学技術研究センター
山下 恵太郎 准教授
西増 弘志 教授
兼:東京大学大学院工学系研究科 教授

Columbia University
Megan Wang Ph.D. student
Samuel H. Sternberg Associate Professor

論文情報

雑誌名: 「Cell」オンライン版:7月28日(英国夏時間) 題 名: Coordinated RNA- and protein-templated synthesis of double-stranded DNA by a dual reverse transcriptase immune system 著者名: Megan Wang , Kanta Yoneyama , Rimantė Žedaveinytė, Junichiro Ishikawa, Stephen Tang, Hoang C. Le, Tanner Wiegand, Josephine L. Ramirez, Naoto Nagahata, Yanzhe Ma, Dennis J. Zhang, Erick Helmeczi, Mirela Berisa, Marko Jovanovic, Masahiro Hiraizumi, Keitaro Yamashita, Hiroshi Nishimasu*, Samuel H. Sternberg*( 共同筆頭著者、*責任著者) DOI: https://doi.org/10.1016/j.cell.2026.07.012

研究助成

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費「特別研究員奨励費(課題番号:26KJ0950)」、「若手研究(課題番号:23K14133)」、「学術変革領域研究(A)(課題番号:21H05281)」、「基盤研究(A)(課題番号:22H00403)」、「基盤研究(S)(課題番号:25H00436)」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「創薬等先端技術支援プラットフォーム(BINDS)(課題番号:JP21am0101115、支援番号:6464)」、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「ACT-X(課題番号:JPMJAX232F)」、「CREST(課題番号:JPMJCR23B6)」、武田科学振興財団「武田報彰医学研究助成」、稲盛財団InaRISフェローシップなどの支援により実施されました。

用語解説

問合せ先

東京大学先端科学技術研究センター 構造生命科学分野
教授 西増 弘志(にします ひろし)

University of Tokyo published this content on July 29, 2026, and is solely responsible for the information contained herein. Distributed via Public Technologies (PUBT), unedited and unaltered, on July 28, 2026 at 15:14 UTC. If you believe the information included in the content is inaccurate or outdated and requires editing or removal, please contact us at [email protected]