University of Tokyo

04/17/2026 | Press release | Distributed by Public on 04/17/2026 00:45

0.1mmの雪粒子成長の取り扱いでスーパー台風の強さが変わる

2026年4月17日

東京大学
海洋研究開発機構

要約版PDF

発表のポイント

◆スーパーコンピュータを用いたアンサンブル実験により、雪粒子(〜0.1mm)の衝突成長モデリングを改善することで、スーパー台風(〜1000km)の強度の再現性が系統的に向上することを示しました。
◆雲粒子同士の衝突を改善したモデルでは台風の中心を覆う上層の雲が薄くなり、放射冷却に伴う下降流が外側の雨雲を抑制することが分かりました。この変化が台風中心への角運動量の集中を促し、結果としてスーパー台風の強化につながったのです。
◆台風を構成する雪粒子の成長を数値的に適切にモデリングすることで、台風予報の精度が向上することを実証しました。この知見は気象予報・気候変動予測モデルの両方に活用できます。

雪粒子の衝突成長モデリングの違いによる台風中心気圧の差

概要

東京大学大学院理学系研究科/大気海洋研究所の韮澤雄太朗大学院生と、海洋研究開発機構環境変動予測研究センターの清木達也主任研究員らによる研究グループは、雲粒子の衝突成長モデリングを高精度化することで、台風最発達期における中心気圧が統計的有意に低下し、スーパー台風(注1 )の数値シミュレーション結果が現実に近づいたことを示しました。台風予測は初期値に強く依存するため、数値モデリングの改善とシミュレートされた台風強度との因果関係を説明することは困難でした。本研究では、スーパー台風の発達強化が偶然によるものではなく、雪雲粒子成長が放射対流相互作用を通して台風中心付近の雨雲発達に寄与して、台風の発達に影響を与えるメカニズムを実証しました。この成果は、スーパー台風の予報精度の改善に向けて、雪雲粒子成長モデリングの改善が有効であることを指摘し、今後の気候モデルにおける台風予測の改善に貢献することが期待されます。

発表内容

スーパー台風は数百kmにわたり非常に強い降水と地表面風速をもたらすため、強度予報の高精度化が望まれます。しかしながら、高解像度の気候変動予測モデルをもってしてもスーパー台風の強度を再現することは依然として困難であり、数値モデリング手法の改善方針については確立されていません。

本研究では台風の上部に広がる雪雲に着目し、雪雲粒子の成長モデリングを改良することで台風の強度も改善されるのではないかと考えました。台風は予測間のばらつきが大きく、1回の予測では改良の影響を断言できません。そのため、北西太平洋で発生したスーパー台風5事例を対象にアンサンブル実験(注2)を実施し、雪雲粒子成長モデリング手法が台風(計34個)の発達に与える影響を調査しました。

簡易的なモデリング手法を用いた実験(SIMPLE実験)と比べて、高精度な雪雲粒子同士の衝突成長モデリング手法を用いた実験(CTL実験)の方が、台風最発達期における中心気圧が平均で3.9hPaほど強く低下し、スーパー台風が最発達期を迎える2日前(-2日)から実験間で台風の発達率に顕著な違いが現れることが分かりました。

そこで、-2日における台風中心付近の雪雲の構造を調べたところ、CTL実験はSIMPLE実験と比べて、大気上層(高度10〜15km)の氷晶粒子が減る一方、雪粒子が増えることが分かりました(図1a-d)。これは、CTL実験では台風周りであられが雪粒子と衝突しにくくなる一方で、大気上層へと吹き上げられた雪粒子が氷晶粒子と衝突して効率的に成長していることに起因します。高精度化実験では氷晶粒子が消費されやすかったことが、大気上層に広がる雲が薄くなることにつながりました。

大気上層に広がる巻雲は温室効果を持つことが知られており、CTL実験の巻雲が薄くなることは大気を冷却する方向に働きます。冷えて重くなった上層の大気は沈降流を引き起こし、台風の壁雲外側で成長しようとするレインバンド(注3)を阻害するように働くことが分かりました(図1e)。壁雲の外側で降水が比較的降りにくくなることで(図2a)、角運動量が効率的に台風中心へと運ばれるようになり(図2b)、CTL実験では台風の中心がより発達するようになりました(放射対流相互作用)。

今後、気候モデルを改良していく際に、本研究で提唱されたスーパー台風の強化メカニズムが働いているかどうかを確認することで、スーパー台風予測の改善に繋がるかどうかを判断することが可能となります。

図1:台風最発達期の2日前における、氷晶・雪粒子と鉛直流の実験間の違い。横軸は台風の最大風速半径で規格化した台風中心からの距離である。

図2:台風最発達時からその3日前までにおける降水強度と角運動量時間発展の実験間の違い。横軸は台風の最大風速半径で規格化した台風中心からの距離である。黒実線CTL実験における値を示す。

発表者・研究者等情報

東京大学
大学院理学系研究科/大気海洋研究所 気候システム研究系
韮澤 雄太朗 博士課程
研究当時:東京大学 大気海洋研究所 臨時研究補助員

海洋研究開発機構
環境変動予測研究センター
清木 達也 主任研究員
山田 洋平 研究当時:特任研究員
現:気象庁気象研究所 客員研究員
地球情報科学技術センター
鈴木 智恵子 特任准研究員

論文情報

雑誌名:Atmospheric Science Letters
題 名:Impact of Aggregational Growth Modeling on the Intensification of Extreme Tropical Cyclones through Radiative Feedbacks
著者名:Yutaro Nirasawa*, Tatsuya Seiki, Yohei Yamada, and Chieko Suzuki
DOI: 10.1002/asl2.70023
URL:
https://doi.org/10.1002/asl2.70023

研究助成

本研究は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)第3回、第4回地球観測研究公募(ER3ECF004, ER4ECF005; 研究代表者:国立研究開発法人海洋研究開発機構 清木達也)、科研費基盤B「北西太平洋モンスーンの変動に伴う大気海洋の熱収支変化の影響とその解像度依存性(課題番号:22H01297/23K22568)」、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(助成番号:JPMJSP2108)の助成を受けたものです。数値シミュレーションは、地球シミュレータ上で実行しました。

用語解説

(注1)スーパー台風 一般に最大風速が60m/s以上の台風を指します。本研究では、北西太平洋に発生した最低中心気圧920hPaを下回る台風を指しています。 (注2)アンサンブル実験 ほぼ同等の条件下で多数の実験を実施することであり、実験結果の妥当性を確率的に評価するために用いられます。 (注3)レインバンド 台風の目に向かってらせん状に分布する降水帯を示します。

問合せ先

東京大学 大学院理学系研究科/大気海洋研究所 気候システム研究系
博士課程 韮澤 雄太朗(にらさわ ゆうたろう)
E-mail:nirasawaaori.u-tokyo.ac.jp

(問い合わせには、Cc.に下記指導教員を入れてください)
東京大学 大気海洋研究所 気候システム研究系
准教授 宮川 知己(みやかわ ともき)
E-mail:miyakawaaori.u-tokyo.ac.jp

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