University of Tokyo

05/15/2026 | Press release | Distributed by Public on 05/15/2026 02:52

光の制約が体の形を決める ―エゾハリイカの装飾腕が示した偏光シグナル生...

2026年5月15日

東京大学
東京理科大学
青森県営浅虫水族館

要約版PDF

発表のポイント

◆エゾハリイカの雄が求愛に使う腕の形が、視覚的なコミュニケーションシグナルを作るための光の仕組みによって決まることを明らかにしました。
◆この腕の成長パターンが光の偏光による視覚シグナルを作ることに最適化していることを示すことで、動物の形態と光物理のこれまで知られていなかった関係性が明らかになりました。
◆動物の多様な形態の進化のしくみを理解する上で役立つことが期待されます。

求愛に使う長い二本の腕を持つエゾハリイカの雄

概要

東京大学大学院農学生命科学研究科の中山新東京大学特別研究員(研究当時)、同大学大気海洋研究所の岩田容子准教授、東京理科大学の吉岡伸也教授、大貫良輔助教、青森県営浅虫水族館らによる研究グループは、エゾハリイカの雄が求愛時に使う腕の形が、腕に生じる偏光(注1 )の模様を作る光の仕組みによって決まることを明らかにしました。

エゾハリイカの雄は、雌にアピールするときに腕で生み出す偏光模様を利用します。本研究では、この偏光模様が環境中で目立ちやすくなる条件と、腕の成長のしかたとの関係を調べました。その結果、雄の腕は最も目立つ偏光模様を生み出す形に近づくように成長することが分かりました。本研究は、動物の派手な形質の進化が、繁殖上の利益や生存上の不利益のバランスだけでなく、シグナルを生み出す光の物理的な仕組みによっても左右されることを示す成果です。今後、動物の視覚コミュニケーションの多様性とその進化を理解する上で役立つことが期待されます。

発表内容

クジャクの雄の羽に代表されるように、動物の雄が派手で装飾的な形質を持つ例は自然界に多く存在します。こうした形質は、大きく派手であることによって雌を惹きつける効果を持ちますが、際限なく大きく派手に進化することはありません。その分、捕食されるリスクや、形質を発達・維持するためのコストといった、生存上の不利益も増加するからです。従来の研究は、こうした装飾的な形質は、繁殖上の利益と生存上の不利益とがつり合う形態に収束すると説明してきました。

今回、研究グループは、この従来の説明に加え、「視覚的なアピールとして機能するための仕組みそのものが、装飾形質の形を制限する」ことを、エゾハリイカというイカの仲間を用いて示しました。エゾハリイカの雄は長く発達した装飾腕を持っており、この腕で光の「偏光(図1)」の模様を示して雌にアピールします(関連プレスリリース①②)。イカやタコ、コウイカの仲間は偏光を知覚できるため、この偏光模様が雌にとって目立って見えるかが雄の繁殖成功に重要だと推測されます。彼らが生息する海中では、ディスプレイの背景は水平方向に偏光していることから、腕の偏光模様が目立つには、背景に対してコントラストが強くなる垂直方向の偏光を示すことが重要です。先行研究では、この腕は表皮で反射した水平方向の偏光を筋肉層に透過させることで垂直方向の偏光を作り出すことが示されていました(図2左、関連プレスリリース②)。光が腕を透過する際、筋肉が持つ旋光性(注2)という性質によって偏光の方向が回転するのです。今回の研究では、この回転量が腕の幅に比例して増えるという理論的予測を実際に確かめました。腕の筋肉を通した光を測定したところ、偏光方向の回転量は幅に応じて直線的に増加し(図2右上)、幅が約3.9 mmのときに90度の回転に達しました。

さらに、未成熟個体から成熟個体までの標本を用いて腕の成長を調べたところ、成長の途中から腕の幅の増加がほぼ止まり、一定の太さをもつ円柱状へ近づくことが分かりました(図2右下)。成長が停止する幅は、光学実験で求めた最適な腕の幅とよく一致していました。つまり、雄の腕は偏光模様を最も目立たせる幅に合わせて成長していると考えられます。

本研究は、性的装飾の形が繁殖上の利益と生存上の不利益だけでなく、視覚シグナルのための光物理的条件によっても決まることを示しました。偏光シグナルは色や明るさといった他の視覚シグナルと比べるとまだ研究例が少なく、その進化の仕組みや多様性もほとんど分かっていません。今回の成果は、視覚シグナルの多様化を理解する手がかりとなるだけでなく、動物の多様な形態進化の仕組み解明に役立つと期待されます。

図1:光の偏光の概念図。光の波が振動する方向やその偏りを指す。

図2:左:エゾハリイカの求愛ディスプレイ。装飾腕を光が透過することによって、光の偏光の向き(黒両矢印)が回転する。右上:腕の太さが大きくなると、偏光方向の回転量も増加する。右下:腕の太さの成長は、偏光を90°回転させる値に収束する。

〇関連情報:
プレスリリース①「イカ墨の暗幕で求愛の舞台を作る ―墨を使ったエゾハリイカの特殊な求愛行動―」(2024/2/2)
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2024/20240202.html

プレスリリース②「透明な体が"派手"を生み出す―体の透過光を利用したエゾハリイカの求愛ディスプレイ―」(2026/1/27)
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2026/20260127.html

発表者・研究者等情報

東京大学
大学院農学生命科学研究科
中山 新 東京大学特別研究員/日本学術振興会特別研究員(研究当時)
現:国立台湾師範大学 NSTCリサーチフェロー
細野 将汰 博士課程/日本学術振興会特別研究員(研究当時)
現:岡山大学 特任助教
戸田 達也 博士課程

大気海洋研究所
岩田 容子 准教授

東京理科大学
創域理工学部先端物理学科
吉岡 伸也 教授
大貫 良輔 助教

青森県営浅虫水族館
飼育展示部
櫛引 俊彦 部長

論文情報

雑誌名:Journal of Experimental Biology
題 名:Optical constraints shape a polarized sexual ornament in cuttlefish
著者名:Arata Nakayama, Ryosuke Ohnuki, Shota Hosono, Tatsuya Toda, Shinya Yoshioka, Toshihiko Kushihiki, Yoko Iwata
DOI: 10.1242/jeb.252261
URL: https://doi.org/10.1242/jeb.252261

研究助成

本研究は、科研費挑戦的研究(萌芽)「偏光による頭足類の隠れた種内コミュニケーションとその適応的意義(課題番号:21K19290)」、特別研究員奨励費「偏光を用いた種内コミュニケーションの実証:頭足類の求愛行動から迫る(課題番号:23KJ0487)」、JST SPRING GX(課題番号:JPMJSP2108)、藤原ナチュラルヒストリー振興財団の支援により実施されました。

用語解説

(注1)偏光 光の波の振動方向やその偏り。 (注2)旋光性 物質の内部を光が通過するとき、その光の円偏光成分の間で屈折率、ひいては光の伝達速度が変わる現象。

問合せ先

国立台湾師範大学
リサーチフェロー 中山 新(なかやま あらた)
E-mail:nakayama.cephgmail.com

東京大学大気海洋研究所
准教授 岩田 容子(いわた ようこ)
E-mail:iwayouaori.u-tokyo.ac.jp

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