University of Tokyo

04/23/2026 | Press release | Distributed by Public on 04/23/2026 03:13

光で結合・解離をスイッチできる小分子とタンパク質のペアをゼロから創る新...

【発表のポイント】
● 望みの性質を持つ光スイッチ分子と、それに特異的に結合するタンパク質のペアを、ゼロから人工的に創り出す手法を開発。
● 青色光と紫色光に応答して可逆的に形を変える光スイッチ分子を設計し、その一方の構造にのみ結合する人工タンパク質タグを創出。
● 開発したペアを動物細胞に応用し、情報伝達、細胞運動、遺伝子発現、受容体活性、細胞分化など、さまざまな機能を光でスイッチングできることを実証。細胞の光操作技術に新たな道を拓く。

【研究概要】
光を用いて細胞内の特定の生体分子の機能を操作する技術は、生命の仕組みを解明するための研究ツールや、疾患を治療するための技術として大きな期待が寄せられています。しかし、これまでの光操作技術の多くは、天然由来の光受容タンパク質や、天然タンパク質に結合する化合物を改変することで作られてきたため、その性質や機能には限界がありました。
名古屋工業大学生命・応用化学類の築地真也教授、宮崎友輝博士後期課程学生、吉井達之助教(研究当時、現東京大学)、名古屋大学大学院工学研究科の村上裕教授、藤野公茂助教(研究当時)、東京大学大学院工学系研究科の津本浩平教授、長門石曉准教授らの研究グループは、望みの性質や光応答性を持つ光操作技術をゼロから人工的に創り出す手法を開発しました。この手法は、光で形が切り替わる小分子(光スイッチ分子)を合理的に設計し、その特定の形にのみ結合する人工タンパク質を進化分子工学の手法によって取得するものです。研究グループはこの手法を用いることで、暗所では結合せず、青色光を照射すると結合し、紫色光を照射すると解離するという性質を持つ光スイッチ分子と人工タンパク質のペアを、世界で初めて創製することに成功しました。さらに、この開発したペアを動物細胞に応用することで、情報伝達、細胞運動、遺伝子発現、受容体活性、細胞分化など、さまざまな細胞機能を光で操作できることを実証しました。
本成果は、望みの光応答特性を持つ小分子とタンパク質のペアを自在に創り出すための手法を提供するものであり、細胞の光操作技術や光を用いた疾患治療の可能性を大きく広げるものと期待されます。
本研究成果は、2026年4月23日18時(日本時間)付で、学術雑誌『Nature Chemistry』に掲載されました。

【研究の背景】
細胞の働きは、タンパク質が「いつ・どこで・どの相手と相互作用するか」によって精密に制御されています。そのため、タンパク質の相互作用や局在を操作する技術は、生命の仕組みの理解や細胞機能の制御、疾患治療において重要です。中でも光は、照射する場所・時間・波長を自在に制御できるため、細胞内の分子を狙ったタイミングと場所で操作できる優れた手段です。こうした特長を生かして、これまでに、光受容タンパク質を利用する光遺伝学(オプトジェネティクス)注1)や、光機能性小分子とタンパク質タグ注2)を組み合わせた化学光遺伝学(ケモオプトジェネティクス)注3)が開発されてきました。しかし、これらの従来の手法は天然由来のタンパク質を基盤としているため、2種類の光による結合・解離の自在な制御が難しい場合や、結合状態の維持に継続的な光照射を必要とする場合があるなど、設計の自由度に制約がありました。
そこで本研究では、望みの光スイッチ機能を持つ小分子(光スイッチ分子)を合理的に設計し、その特定の構造に結合する人工タンパク質を取得することで、光で結合と解離が精密かつ自在にスイッチできる小分子とタンパク質のペアを人工的に構築する手法の開発を目指しました(図1)。

図1 本研究の概念図

【研究の内容・成果】
本研究では、光で形が切り替わる小分子と、それに特異的に結合する人工タンパク質タグのペアをゼロから創出する手法を開発しました。
まず、光スイッチ分子としてortho-tetrafluoroazobenzene(FAzo)に着目しました。FAzoは、青色光でtrans型からcis型へ、紫色光でcis型からtrans型へと可逆的に構造が切り替わり、さらにcis型が安定であるという特徴を持ちます。この性質により、細胞にダメージを与えやすい紫外光を用いずに操作できるとともに、光照射後の状態を維持しやすい分子として有望です。さらに、タンパク質による認識を促進するため、エチル基(Et-FAzo)およびカルボキシル基(Ca-FAzo)を導入した光スイッチ分子を設計・合成しました(図2a)。
次に、これらのFAzo分子のcis型に特異的に結合する人工タンパク質タグの取得を試みました。抗体様タンパク質であるAnticalinを基盤に、約1013種類のライブラリーを構築し、TRAP display法注4)による選択を行いました(図2b)。その結果、cis型FAzoに対して高い親和性と選択性を示し、trans型には結合しない人工タンパク質を取得することに成功しました。Et-FAzoに結合するものをAzoTag1、Ca-FAzoに結合するものをAzoTag16と命名しました。
さらに、HaloTagリガンドを連結したFAzo分子を用い、HaloTagとAzoTagからなる光制御二量体化システムを細胞内に構築しました(図3a,b)。いずれのペアにおいても、青色光照射によりAzoTagはcis型FAzoと結合して細胞内で局在を変化させ、紫色光照射により解離することが確認されました(図3c,d)。この応答は秒スケールで起こり、繰り返しの光照射に対しても安定に機能しました(図3e)。
開発した光制御二量体化システムを用いることで、脂質キナーゼであるPI3Kのシグナル伝達を起点とした細胞膜の局所的な突出とそれに伴う細胞運動の時空間的な光可逆制御に成功しました(図4)。さらに、Raf/ERK経路の制御、遺伝子発現制御、GPCRや受容体型チロシンキナーゼの活性制御、細胞分化誘導など、さまざまな細胞機能を光で制御できることを実証しました。これにより、人工的に創製したFAzoとAzoTagのペアが、細胞光操作のための汎用的なツールとなることが示されました。

図2 cis型FAzoに結合する人工タンパク質の取得

(a) Et-FAzoおよびCa-FAzoの構造。
(b) TRAP displayの模式図。cis型FAzoに結合する人工タンパク質を選択・取得する手法を示す。

図3 AzoTag1/Et-FAzoおよびAzoTag16/Ca-FAzoペアの細胞内応用

(a) AzoTagとHaloTagによる光制御二量体化システムの模式図。
(b) AzoTag-HaloTag二量体化剤の化学構造。
(c, d) 青色光および紫色光の照射により、AzoTag融合タンパク質の細胞内局在が可逆的に変化することを示す共焦点蛍光像。スケールバーは10 µm。
(e) 青色光および紫色光を繰り返し照射した際の、AzoTag融合タンパク質の細胞膜局在の反復的な光制御。

図4 局所的なPI3K活性化の光制御に伴う細胞膜突出の形成

(a) AzoTag16を融合したPI3Kを用いた細胞膜突出の光制御の模式図。
(b) AzoTag16-miRFP680-p85iSH2、HaloTag-KRas4B(CT)(HaloTagPM)、Lifeact-mScarletを共発現したCos-7細胞の代表的なタイムラプス共焦点蛍光像。光の局所照射により細胞膜突出が制御される様子を示す。スケールバーは20 µm。

【成果の意義と今後の展望】
本研究の重要な点は、天然タンパク質を基盤とする従来法とは異なり、望みの光応答特性を持つ小分子を合理的に設計し、それに結合する人工タンパク質を進化分子工学の手法によって取得することで、目的に応じた光スイッチ分子とタンパク質のペアをゼロから自在に創出する新しい化学光遺伝学の方法論を確立したことにあります。
開発したFAzo-AzoTagペアは、暗所では結合せず、青色光で結合、紫色光で解離する明確な二波長応答を示し、光照射後も状態を維持できるという特長を持ちます。これにより、細胞内タンパク質の相互作用や局在を時間的・空間的に高い精度で制御でき、細胞や疾患のメカニズムを分子レベルで解明するための強力かつ汎用的な基盤技術となることが期待されます。さらに本手法は、動物の体内(in vivo)への応用も視野に入ると考えられ、視覚再生をはじめ、脳神経系の機能操作を通じた疾患研究や治療など、新たな光治療技術の創出につながる可能性があります。
今後は、本手法を、応答波長や光異性体の安定性が異なるさまざまな小分子(光スイッチ分子)へと展開することで、用途に応じて設計可能な光操作技術の創出が進み、基礎生命科学、バイオテクノロジー、創薬、医療といった幅広い分野に新たな展開をもたらすことが期待されます。

【用語解説】

(注1)光遺伝学(オプトジェネティクス):

光受容タンパク質を任意の標的タンパク質に融合することで、その相互作用や局在を光で制御する技術。代表例として、シロイヌナズナ由来のクリプトクロム(CRY2)とその結合タンパク質(CIB1)のペアなどが挙げられる。

(注2)タンパク質タグ:

特定の小分子と選択的に結合することのできるタンパク質のこと。例えば、任意の標的タンパク質にタンパク質タグを融合して細胞に発現させ、小分子に蛍光色素を連結した化合物を用いることで、その標的タンパク質を蛍光標識することができる。タンパク質タグは、細胞内の他の分子への影響が少なく、目的の小分子と特異的に結合できる点が特徴である。代表的なものとして、HaloTagやSNAP-tagなどがある。

(注3)化学光遺伝学(ケモオプトジェネティクス):

光に応答する小分子とタンパク質タグを組み合わせることで、タンパク質タグを融合した標的タンパク質の相互作用や局在を光で制御する技術。一般には、小分子に光分解性保護基を導入し、光照射によってこれを外すことで、タンパク質タグとの結合を誘導する方法が用いられてきた。

(注4)TRAP display法:

mRNA提示法を基盤とした試験管内選択法の一つ。アミノ酸配列をランダム化した膨大な種類の人工タンパク質候補の中から、目的の分子に結合するものを効率よく選び出すことができる。本研究グループがこれまでに報告した手法である(T. Ishizawa et al., J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 14; T. Kondo et al., Sci. Adv., 2020, 6, eabd3916)。

【論文情報】
論文名:De novo chemo-optogenetics through the rational design of photoresponsive molecules and selection of their artificial protein binding pairs
著者名:Tomoki Miyazaki#, Tomoshige Fujino#, Tatsuyuki Yoshii, Haruto Kosugi, Mamoru Funane, Naoya Murata, Kim Chung Nguyen, Satoru Nagatoishi, Kouhei Tsumoto, Gosuke Hayashi, Hiroshi Murakami*, Shinya Tsukiji*
#共同第一著者
*共同責任著者
掲載雑誌名:Nature Chemistry
公表日:2026年4月23日
DOI:10.1038/s41557-026-02121-w
URL:https://www.nature.com/articles/s41557-026-02121-w

【研究支援】
本研究は以下の助成により実施されました:
・日本学術振興会 科学研究費補助金 (JP21H05226, JP21K05270, JP23H05456, JP24H01130, JP25H01275)
・日本医療研究開発機構(AMED)(JP21zf0127004)
・日本医療研究開発機構(AMED)創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS) (JP21am0101094)
・戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ) (JPMJPR178B)
・日本学術振興会 特別研究員奨励費 (JP25KJ1445)
・名古屋工業大学 オプトバイオテクノロジー研究センター
・公益財団法人豊田理化学研究所 豊田理研スカラー

プレスリリース本文:PDFファイル

Nature Chemistry : https://www.nature.com/articles/s41557-026-02121-w

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