09/16/2025 | Press release | Distributed by Public on 09/15/2025 09:24
◆ 世界初となる、イネの葉・穂・雑草などを6クラスに識別できる大規模画像データセット「RiceSEG」を公開。
◆ 5か国・12機関が参画し、5万枚以上の圃場画像を収集、3,000枚以上を高精度にアノテーション。
◆ 現代水稲生産の切り札として注目される直播栽培の効率化や、スマート農業・育種の推進に資するなど、持続可能な農業への貢献が期待される。
[Link]
RiceSEGデータセット
東京大学大学院農学生命科学研究科の郭威准教授、加藤洋一郎教授、王浩舟特任研究員、京都大学大学院農学研究科の桂圭佑教授ら日本チームと、中国南京農業大学のShouyang Liu教授を中心とする国際共同研究グループは、世界初となるイネのマルチクラス・セマンティックセグメンテーションデータセット「RiceSEG」を構築しました。本データセットは、中国、日本、インド、フィリピン、タンザニアの5か国12機関が参加し、50,000枚以上の圃場画像を収集、その中から3,078枚を背景・緑葉・枯死葉・穂・雑草・浮草の6クラスに高精度にアノテーションしたものです。従来の「植生/背景」の単純な二分類を超え、複雑な群落構造を含むイネの成長過程や雑草の識別を可能にしました。本成果は、精密育種やスマート農業の推進に資するAI基盤として活用されるとともに、近年注目される直播稲作におけるUAVや自律走行機械によるモニタリング・雑草管理の高度化にも貢献することが期待されます。
[Link]
図1:データセットのグローバル範囲分布と構成
イネは世界人口の半数以上を養う基幹作物ですが、その生産持続性は気候変動や労働力不足の影響を受けています。近年は、AIやロボティクスを活用した「スマート農業」による稲作の省力化や精密化が強く求められています。その中でも、圃場画像から葉や穂を識別して形質を抽出する技術は、育種や栽培管理において不可欠です。しかし従来の公開データセットは限られており、多くは「植生/背景」の単純な分類にとどまっていました。
本研究では、この課題を克服するため、中国、日本、インド、フィリピン、タンザニアにまたがる12機関が国際連携を組織し、圃場から50,000枚以上の画像を収集。その中から代表的な3,078枚を選定し、背景・緑葉・枯死葉・穂・雑草・浮草の6クラスにピクセル単位でアノテーションしました。特に、中国のデータは東北から南部まで主要稲作地域を網羅し、6,000品種以上を含む圧倒的な多様性を備えています。
さらに、CNN系(FCN、DeepLabv3+など)およびTransformer系(SegFormer、Mask2Formerなど)を含む6種類の最先端セマンティックセグメンテーションモデルを用いたベンチマーク実験を実施しました。その結果、背景や緑葉は高精度に識別できる一方、生殖成長期の複雑な作物群落における枯死葉や雑草の識別は依然として困難であることが示されました。これにより、水田農業に特化したAIモデルの開発が今後の研究課題であることも明確になりました。
本成果は、イネの環境適応や収量形成に関わる生理生態学的理解を深めるとともに、実用面では直播稲作(湛水直播/乾田直播)におけるUAVや自律走行機械によるモニタリングや雑草管理につながります。直播稲作は労働力削減と資源効率化の観点から注目されており、本研究で公開するRiceSEGは、その実装に向けたAI・データ駆動技術の基盤として大きな意義を持ちます。
RiceSEGは公式サイト(www.global-rice.com)にて公開され、研究者や開発者が自由に利用可能です。オープンサイエンスを推進する本成果は、農業分野における国際的な研究協力とイノベーションを一層加速することが期待されます。
〇関連情報:
①画像によるコムギ穂自動検出のための大規模なデータベースを作成
〜農業および研究現場に使えるAIツールの開発に期待〜
(2020年8月)
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20200821-1.html
東京大学 大学院農学生命科学研究科
郭 威(Wei Guo) 准教授
加藤 洋一郎(Yoichiro Kato) 教授
王 浩舟(Haozhou Wang) 特任研究員
京都大学 大学院農学研究科
桂 圭佑(Keisuke Katsura) 教授
Nanjing Agricultural University, Academy for Advanced Interdisciplinary Studies
Shouyang Liu 教授
Junchi Zhou 大学院生
雑誌名:Plant Phenomics 題 名:Global Rice Multi-Class Segmentation Dataset (RiceSEG): A Comprehensive and Diverse High-Resolution RGB-Annotated Images for the Development and Benchmarking of Rice Segmentation Algorithms 著者名:Zhou, J., Wang, H., Kato, Y., Nampally, T., Rajalakshmi, P., Balram, M., Katsura, K., Lu, H., Mu, Y., Yang, W., Gao, Y., Xiao, F., Chen, H., Chen, Y., Li, W., Wang, J., Yu, F., Zhou, J., Wang, W., Hu, X., Yang, Y., Ding, Y., Guo, W*., Liu, S*. DOI: https://doi.org/10.1016/j.plaphe.2025.100099 URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2643651525001050
本研究は、日本JSPS科研費(22KK0083, 25H01110)、更別村フィールドフェノミクス寄付講座、中国国家重点研究開発計画(2022YFD2300700, 2022YFE0116200)、その他国内外の複数プロジェクトの支援を受けて実施されました。
(研究内容については発表者にお問合せください)
東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
准教授 郭 威(かく い)
E-mail:guowei[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課総務チーム広報情報担当
Tel:03-5841-8179, 5484 E-mail:koho.a[at]gs.mail.u-tokyo.ac.jp
※上記の[at]は@に置き換えてください。
郭 威
加藤 洋一郎